前回マイクの話の中で「ノイズ」について触れました。
このノイズというもの、日常の中で意識することはあまりないと思います。
ところが、声優やナレーターなど声の仕事をしていく中では切っても切れない厄介な存在になります。
そもそも、ノイズとは何なのか。
「騒音」「雑音」「迷惑音」
この3つに分けて、日常に潜む憎きノイズを解説していきたいと思います。
どうやってノイズと付き合えばいいのか?そもそもノイズを消す方法はないのか?
我々はいかにノイズと戦えばいいのか?
声を仕事にしているみなさん。
是非ともこの「ノイズ」撲滅運動にご参加くださいww
ノイズの正体
概念の問題
ノイズ。
一般的には騒音と言われる、ノイズ。
ところが音響の世界では「不要な音」という解釈をしています。
では、不要な音とは。
そう、目的以外の使わない音。
例えばアフレコなどの音声の世界では「声」以外の音。
ざっくりと「声」以外と言いましたが、じゃあ、ブレス(呼吸)音や、意図的な息遣いの音などはどう判断するのか。
そう、「目的」以外の「使わない」音。
つまり、音声の現場では実際に作品の中で使うことのない「目的以外の使わない音」こそをノイズと呼びます。
目的とは関係なく不用意に発せられた音がノイズ。
だから、足音や衣服が擦れた音、くしゃみやゲップ、お腹が鳴る音、こういった人から発生する音や、建物の外から聞こえてくる環境音(救急車のサイレンやヘリコプターの音)、建物自体から発生する音(エアコンの動作音や建物内の緊急アナウンス)なんかの音は全部ノイズになります。
まあ、音声収録の現場の場合は分かりやすいです。
なにしろ声を録音することが目的なので、それ以外は全部ノイズ。
そりゃ当然ww
今回のくだりでは関係ないけど、音響の仕事で環境音を録音するときなんかは、どこからがノイズであるかの線引きはちょっと難しい。
たとえば、ある交差点で人々が通りすがる街中の環境音を収録しているとする。
その時、人の話し声で場所が特定できたり時間や日時が特定されてしまうなどはNG。だからこの時、それらが特定できてしまうの人の会話等はノイズとなる。
とかね。
いろいろと気を使うからめんどくさいwww
こんな風に目的とは関係のない音が入り込むことが、ノイズが入るという概念になる。
何も騒音だけがノイズではないことを、まずは知っておいて欲しい。
そんな、ノイズ(目的以外の音)。
音声収録の現場は、そもそもノイズが入らないように設定された環境で収録するので、本来はノイズに関しては気を使わなくていいはずなんだ。
スタジオなんかは当然防音設備が施されているので、外からの環境音はまず問題にはならない(例外もあるよんw)。当然、建物から発生する音なんかもそもそも鳴らないように設計されて作られている。
だから、音声収録時に気を使うべきノイズは、演者(発声者)から発生するノイズだけとなる。
発生のメカニズム
さあそんな演者(発声者)から出るノイズとは。
目的以外の音なので、本番(作品の中)で使用されない音はノイズです。
言い方は悪いけど使われなかったセリフや息芝居なども、編集という観点から見ればノイズです。
まあでもこれは後でそれと認定するモノなので、収録時にノイズです!とは当然言いません。
収録時に明らかにノイズです!となるのは、衣服が擦れる音やお腹が鳴る音、他にも意図せず鳴ってしまう演者から発生した音。
これらは後で除去することが難しいと判断されれば、録り直しの原因となるノイズになります。
だから演者はこの類のノイズにはとても敏感。
だって、自分の芝居が生きないから。
録り直しになったら同じ芝居が出来る保証はないからね。
なので、演者はノイズの外し方(ちょっと専門的な言い方)をよく知っています。
もちろん音響からの指示でノイズを出さないように工夫をすることもあります。
ただ、ほとんど「今ノイズでした!」って録り直しのリクエストをすると、次からはノイズのないものが返ってきます。
これって、演者が「何が」原因で「どんな」ノイズが発生したかを把握し理解できていないと、簡単には消せないんですよね。
ここら辺の話が、キミたち声優・ナレーターに関わる人たちには肝になるかなと思います。
「ノイズです」と指摘され、そのノイズが何の音でどうやって出してしまったかを把握できていないと、対処のしようがありません。
録り直しの際に、同じように何度もノイズを出していては当然OKになりませんし、自分も疲弊していきます(心身ともに)。
だから、ノイズを指摘された際には即対応出来ることが、プロとして必要なスキルになります。
そして、自分でノイズを出した自覚を持てることもプロとしての信頼につながるスキルになります。
このノイズを出さない・消すというスキル。
お芝居の勉強と違ってとても実践的なスキルになります。
ぜひ、身につけておくことを強くお薦めします。
環境音との違い
音声の収録現場では基本的には環境音のノイズは気にならないという話をしました。
この環境音のノイズ。
人の耳が聞き分けることが出来る音なら、その存在にすぐ気づけることが出来ます。
例えば、ふつうに工事とかの騒音、電車が通過する際の騒音、やたらに喧しい車の騒音。
こんな音は生活の邪魔になる、いわゆる騒音です。
しかし世の中にはマイクを通して、しかも録音して初めてそれと知ることが出来る音と言うモノも存在します。
いわゆる超音波と言われるものもそうなんだけど、ここではもう少し身近な音を取り上げてみます。
人が一番音として認識しづらいもの、それは「低音」。
ここで少し難しい話に脱線します。
音と言うのは人の耳に伝わるためには振動しなくてはなりません。振動が空気を伝わり「波形」として耳に届き音として認識されます。
低音というのはこの波形(振動)が遅い、つまり振幅の幅が広い波形を言います。
この遅い振動は人の耳に届いていても「音」として認識することがとても難しい波形になります。
しかし、マイクではしっかりと波形として認識されます。
結果、録音されたテータの波形を見てみるとしっかりとノイズとして存在します。
じゃあこの低音はどこから発生するのか?
一番の発生源は床、つまり地面です。
なぜ地面から?という話を始めるとまた難しくなるので、ここでは地面や地表からもノイズを発生していると思ってください。
この地面から発生するノイズはグラウンドノイズとも呼ばれますが、マイクと言うのは常にこのグラウンドノイズを拾っています。
これは建物の中であっても多少の干渉があり、ノイズとして混入することがあります。
そのためプロの音響スタジオでは床が浮いていたりもするのですが、それはまた別のお話。
実際にこのグラウンドノイズを除去する方法としては、EQで処理をするのが一般的です。
EQとはイコライザーと呼ばれるエフェクターで、収録現場では大体使用される機材です。
最近ではパソコンないでアプリとして使用されますが、このEQを使って低音のノイズをカットします。
だから演者がこの低音のノイズを意識することはまずないのだけど、男性の演者の場合たまに例外が発生します。
男性の声って意外に低音成分が多くて、このグラウンドノイズと同じような周波数の帯域を持ってるんだ。
だからあまりEQを使いすぎると、この男性の声が軽くなってしまうという弊害があったりもする。
まあ、だからといって演者さんがどうこうできる話ではないので、キミたちには関係ないかもしれないけど。
このての技術的なことも知識として知っておくと、意外に助けになることもあるので、興味のある人は深堀してみてください。
あえて分類してみた
騒音
「騒音」とは読んで字のごとく騒がしい音。
つまり、その音が何であれ人が「騒がしい」と思えば騒音ってことだね。
ノイズと訳されますが音響の世界でいう「邪魔な音」になるかどうかは、目的次第。
もちろん音声収録の現場において「騒がしい音」はまぎれもなく「騒音(ノイズ)」。
そんな当たり前のことをなぜ話題にするかと言うと、ノイズの種類についてすこし掘り下げたいと思います。
音響の世界でのノイズとは「必要のない音」という話はしたよね。
じゃあ騒音はノイズかというと、音響の世界では一概には言えない。
なぜなら、作品の中で騒音が必要になるときがあるから。
この時は騒音という「音素材」が必要と言うことになる。
逆にこの騒音という素材の中に不必要な音が存在していたら、その音こそが「ノイズ」となる。
ノイズ=騒がしい音ではないことを知っておこう。
収録の現場でわざわざ騒がしい音を収録することもあるからね。
「ガヤ」といって、群衆が騒いでいる音を録音することがある。
これも、ただ「ワーワー」「ザワザワ」しているだけならそういった音素材が製品として存在しているので、それを使用するんだけど。
アニメの中ではその作品の世界観が重要になる。
たとえば群衆が戦勝を喜んで将軍の前で歓喜の声を上げている場面なんかでは、人々は口々にその将軍の名前だったり、国の名前であったりと「固有名詞」を口にすることでしょう。
そんなときもちろん市販の製品い固有名詞は収録されていません。
なのでアフレコの現場でガヤ録りをして、その固有名詞なり作品の中で使われる群衆の声を録音するんです。
こういうときも、なるべく多くの声優に同時に「ガヤガヤ」してもらい、その中で固有名詞などを言ってもらったりします。
その方が臨場感が出るので。
こういうの現場では「粒立ち」とか言ったりするけど、それはまあ現場によりけり。
でもこうやってわざわざ騒がしい音を録音したりもします。
作品により臨場感やリアリティーを出すためにね。
騒音も立派な音素材。
雑音
はい、つぎは雑音。
これはだいぶ収録で使われるノイズに近いニュアンスだよね。
雑な音。
目的を持たない音。
そんなイメージかな。
ところが、ごく稀ですがこの雑音を音声に上手く取り入れる手法があったりもします。
アニメや外画のように映像がある場合、役者の動きやしぐさで音の情報を補完している時があります。
またややこしいことを言い始めましたww
簡単な例としては、表情が険しいときに「え?」って返事したら、見てる人は「あ、迷惑そうだな」とか「気にくわないんだろうな」とか思うよね。
それは見た目の情報と音の情報を総合評価して感じる感想(ややこしくてごめんなさい)。
ところが音だけで「え?」と聞かされても正確な感情は分からないよね。
こういうこと、映像の中でもその発声者が画面に映っていない(オフといいます)ときに台詞があるというように、わりとあるんです。
そんな時声優はどんな芝居をするか。
もちろんその時の感情に合わせた声の芝居をするんだけど、それでも伝わり切らない時とかもあるんだよね。
じゃあどうする?
一例として、不機嫌な感情を台詞に乗せるとき台詞の頭に「チッ」と舌を鳴らす音を入れたりします。
これ、本来は雑音であってノイズです。
でも、そのシーンを構成する中で必要な芝居の一つになり得るんだよね。
他にも、台詞をわざと詰まらせるとか、わざと滑舌を悪くするだとか、しゃっくりをするだとか。
雑音と呼ばれる音を駆使した声芝居はけっこうあります。
こういうの、巧みな人はメチャクチャ上手い!
時として、後でアニメの絵が差し変わるなんてことがあるくらい(実話)www
もちろん声優のアドリブなんだけど、台本に指定があることもある。
そんな時に備えて、雑音の出し方練習しておいた方がいいかもよww
迷惑音
あまり迷惑音とかって言わないよね。
ボクも初めて耳にしたかもwww(オイ…)
まあ収録の現場に限って言えばノイズは迷惑音なんだけどね。
これも必要としない音が聞こえてきた場合、それは今行われている作業のなかでは迷惑な音だよね。
感情的なニュアンスが伝わるかな。
本番中に収録ブースの中で発する余計な音(ノイズ)。
移動の時の足音や服が擦れる音。
台本をめくる音、髪を掻く音、椅子から立ち上がる音・座る音、お腹が鳴る、どうしても我慢できなかったくしゃみ、着信音…
けっこう、あるんです迷惑な音。
もちろん全部ノイズなんだけど、防ぐことの出来る音を発生してしまった場合は、それ迷惑行為ですwww
マイクのときにも書いたけど、アフレコの現場って収録ブースで同時に大人数で収録することが多く、マイク前以外で過ごす時間がけっこう多いんだよね。
当然自分の出番じゃなければマイクから離れて他の場所で待機することになる。
収録ブース内には椅子が置かれていることが多く、そこで待機したり出番が近ければマイクのそばで待機したりする。
マイクって性能いいんです。
2~3m離れてるくらいじゃ、その音は拾われてるんです。
お腹が鳴る、足を組み替える、髪をかき上げる、バッグに触る、床と足が擦れる、ペンのノックの音、、、
これら全部実際にあった本番中のNGノイズ。
またこういったノイズって面白いくらいいいシーンで起きるwww
会心の泣き芝居の時とか、愛のささやきの時とか、超絶長台詞の終わる直前とか。
ホント、現場のスタッフは固まりますwww
みんな。
マイクの性能を侮ってはいけませんよ。
あなたのその「迷惑行為」しっかりと拾ってますよ。
ノイズとの戦い方
出さない努力
ノイズはないことが一番です。
ないに越したことはありません。
だから、出さないようにしましょう!!
じゃあ、どうすればノイズをださない?
たとえば、マイク前で芝居をするときにどうしても動いてしまう人は、動いても音が出づらい服を着てきています。
また口が鳴りやすい人は収録時には水を獲り、口内を乾燥させないようにしています。
また、足音を立てないように靴を脱ぐ人もいます。
お腹が鳴らないように、収録前に適度に食事を獲る人もいます。
お腹が鳴るのは、空腹でもダメだけど消化をしている時にも鳴るから、それを考慮した時間に食事をしたりしてます。
女性は、本番時にはアクセサリーを外したりもします(最近は男性も多いW)。
台本にわざと折り目を付けるなどして、本番時に意図せずページがめくれることを防ぐ人もいます。
とにかく、千差万別、十人十色。
声優の数だけノイズの防ぎ方の努力があります。
そして、ベテランになればなるほどノイズを出さなくなります。
これってやっぱり経験の賜物なのか、ベテランは普通に会話していても余計な音を発しません!
あの、ホント凄いです。。。
声もそうなんだけど、しぐさや動きからも余計な音が出ないんだよね。
やっぱり、ノイズを防ぐ最大の方法は常日頃の意識なのかもしれない。
普段から音に対する意識が強い人は、ノイズにもシビアだし。
是非とも、こういったベ手練の声優の普段の所作や立ち居振る舞いは参考にしてみてください。
どうにもできないこともある
とは言ってもノイズは出ます。
どうにもならない時もあります。
その台詞にだけどうしてもノイズが被るとか、ホントあるんです。
これ、誰にもどうにもできないwww
そんな時現場は開き直ります。
そしてほとんどは後の作業で何とかします。
でも、極力ノイズを出さない努力をしましょう。
泣く泣く努力をしましょう。
そうすれば最後は編集者が泣いてくれますwww
でもくれぐれも言っておきます。
最後まで、出さない努力をしましょう。。。
永遠の戦い…
音を扱う職業の人間にとって、ノイズとの戦いは永遠に続きます。
生身の人間がマイクを通して声を録音する限り、ノイズとの戦いはなくならないでしょう。
デジタル技術の進歩やAIの進歩で、ノイズを除去する技術も大幅に向上しました。
しましたが、最終的にノイズかそうでないかの判断は、やはり人が行うでしょう。
その音を聞くのが人間である限りは、人間がその責任において最終的な判断をするべきでしょう。
今まで述べてきた通り、ノイズとは定義がありません。
相対的なモノなのです。
必要がなければどんなに美しい天使の歌声であってもノイズ。
必要であればどんなに耳を覆いたくなるような阿鼻叫喚の声であってもそれは音。
ノイズの定義は決められません。
その時に必要な音なのか、目的を持った音なのか。
その時その時に判断をし、演出し、世界観を構築する。
必要のない音はノイズと言いました。
状況や、目的によって変わるノイズ。
ノイズとは上手に付き合っていきましょう。
まとめ
はい。ノイズのお話でした。
結構ややこしいでしょ?ノイズ。
最近のデジタルコンテンツの普及によってさらにノイズに対してはシビアになってます。
何しろ音のクオリティが格段に向上しているので、不必要な音が目立つんです。
逆に、作品の世界観を表すために昔ではノイズ扱いだった音をあえて取り入れているモノも見受けられます。
これは作品を観るツールがテレビだけではなくなってきたこともあって、音源の再生ツールの性能が上がっていることも指摘できます。
とにかく、必要のない音はいつでも省けるように訓練をしてこう。
恐らくほとんどのノイズは意識の持ち方で避けられるものばかりだよ。
難しく考えないで、普段の生活からノイズになりそうな音を意識してみよう。
必ず現場に行ったときに役に立ちます。
では今回はここまで。
ゆうでした。
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